幻の花街「柳橋」の艶めく残り香を巡る 〜フェチフェス裏散策 in 浅草橋〜

フェチフェス会場として新たに選ばれた“浅草橋”
下町情緒あふれる問屋街として知られているが……
その実態は、「花と艶」・「血」・「死」が並存する、極めて異質な界隈なのである。
今回は裏フェチフェスならぬ“フェチフェス裏”を紹介したい。

東京文具共和会館・裏
神田川沿いに船宿が並び、屋形船がそこかしこに係留している。
神田川下流、隅田川河口に架かる柳橋付近。
この辺りは江戸時代中頃から平成まで、格式高い花街として知られていた。
新橋の花街とともに「柳新二橋」と呼ばれ、柳橋芸妓は新橋よりも格上だったとされる。
色を売る者より芸を売る者が多く、特に芸事に秀でた者は明治座に出演して芸を披露することもあった。
 
 
柳橋の架設は元禄11年(1698年)。
当時は「川口出口之橋」と呼ばれていたが、橋のほとりに柳が植えられていたことから「柳橋」の名で呼ばれるようになった。
現在の橋は昭和4年(1929年)に架けられたものである。
 
江戸時代、柳橋の船着場は、新吉原へ向かう水路の玄関口だった。
当時は「猪牙舟(ちょきぶね)」と呼ばれる小型の舟で新吉原へ行くことが“贅沢”と思われていた。
船首が細長く尖った屋根のない構造で、猪の牙に似ていることが名前の由来だという。
 

かつての旦那衆は、柳橋付近の船宿で芸者遊びに興じていたそうだ。
往時の著名な旦那衆を数名挙げよう。
 
正岡子規は柳橋の花街風情をいくつか詠んでいる。
 
春の夜や 女見返る 柳橋
贅沢な 人の涼みや 柳橋
御白粉の 風薫るなり 柳橋
菖蒲提げて 女行くなり 柳橋
 
いずれも、往時の花街の妖艶さと粋な雰囲気を彷彿とさせる俳句だ。
橋の上で通りすがった芸妓たちや、花街特有の空気に、正岡子規は何とも言えないロマンや高揚感を抱いていたのだろう。
 
永井荷風は小説「銀座」において『柳橋は動かし難い伝説の権威を背負っている』と褒め称えている。
遊び人の荷風が太鼓判を押していたのだから、柳橋は玄人ウケする風情だったに違いない。
(…いや、女と酒が揃っていれば、荷風は無条件にどんな処でも褒めそうだ)
 
島崎藤村は、「破戒」を発表後、柳橋1丁目へ移住。
柳橋を題材にした「新片町にて」を発表した。
私生活では、身の回りの世話を任せていた姪の“こま子”と男女の仲になり、こま子は藤村の子を身籠ってしまう。
この時、藤村は40代前半、こま子は20歳。
さすがにまずいと思った藤村は、「パリ留学」という建前でこま子の元から逃亡したのである。
実にクソ野郎だ。
帰国後に発表した私小説「新生」では、こま子との当時の関係が描かれている。

現在の柳橋欄干には「かんざしのレリーフ」が飾られている。
往時の花柳界の面影を偲ぶシンボルとして、赤と青のかんざしが等間隔・交互に配置されている。
“映えスポット”として撮影にオススメだ。
 
 
柳橋の付近には、安政元年(1854年)創業の割烹「亀清楼」(現在休業中)の看板が確認できる。
初代内閣総理大臣の伊藤博文が贔屓にしていた店だ。
女好きの伊藤博文は、『掃いて捨てるほど女がいる』から「箒」というあだ名で呼ばれていたそうだ
柳橋でもヤンチャしていたのだろうか。
亀清楼は横綱審議会の会合場所としても利用されていた。
 
 
柳橋と東京文具共和会館の中間にある和菓子処「梅花亭」のうぐいす餡ドラ焼きが美味い。
残念ながら日曜定休。
https://tabelog.com/tokyo/A1311/A131103/13008642/

花街周辺には、芸事の上達や商売繁盛を願うお稲荷さんが点在している。
柳橋も例外ではなく、付近に2カ所のお稲荷さんが存在する。
 
石塚稲荷神社
玉垣に「柳橋料亭組合」「柳橋藝妓組合」。
料亭の名前や芸妓の個人名も見受けられる。
 
 
篠塚稲荷神社
こちらも玉垣に「東京柳橋組合」。
「いな垣」は柳橋に残っていた最後の料亭。
1999年に廃業し、時を同じくして柳橋の芸妓組合も解散した。
「日本相撲協会」や和菓子処「梅花亭」の玉垣も確認できる。
 

 
高度成長期に入り、隅田川の水質悪化やカミソリ堤防建設など周囲の環境が激変したことで柳橋の花街の衰退が始まった。
芸妓の後継者不足や遊びの多様化も相まって、最後の料亭「いな垣」廃業とともに、柳橋は花街としての長い歴史に終止符を打つに至った。
 
このような趣深い花街跡でフェチフェスのようなイベントが開催されるのは、何かの縁ではないだろうか。
次回は浅草・浅草橋界隈の別の色町や処刑場跡などについても書こうと思う。
前々回までの会場だった小伝馬町・人形町周辺についても言及したい。
 
柳橋が舞台の落語「船徳」を聞きたくなってきた。
今日はいったん筆を置いて、往時の柳橋に思いを馳せながら落語を聞きつつ、月下独酌を楽しむとするか。

Leave a Reply

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA