アフガニスタンの女装ショタ文化 ”bacha bazi（バチャ バジ）”
洋の東西を問わず、古今を通じて女装ショタ文化は存在する。
そのまた逆も然り。男装ロリ文化も存在する。
中性的なものに人間は魅了されるのであろう。
宗教や風習、人間の本能がそのことを我々に教示するのだ。
今回はアフガニスタンの女装ショタ・稚児文化”bacha bazi（バチャ バジ）”について紹介しようと思う。
①bacha baziとは？
アフガニスタンは前近代的な価値観を持つ国である。
厳格なイスラム法の下、女性は多くの制限を課せられている。
女性は公の場へ出られない。宴席への参加や踊ることも禁じられている。
文字通り、ブルカとニカブの内側だけで生きることを女性は強制されているのだ。
そのような国・地域では、未熟な美少年が女性の役目を担うことになる。
その役目を担う者が”bacha”なのである。
bacha baziはペルシャ語由来の文化・言葉である。直訳すると”子供遊び”。
日本風に言うならば”お稚児さん遊び”である。
bachaと呼ばれる稚児が女性のように振舞うのだ。
bachaは１０代の少年が大半を占めている。
１２~１５歳の少年が最もよく好まれるが、
それ以下の子供は性の対象として見られない。
２０歳～２５歳まで続ける者もいるが、顎鬚の生えそろった物は忌避される。
顎鬚が生えそろうと一人前の男と認知され、お役御免となる訳だ。
アフガニスタンのエリート男性達は、女性や少女よりも少年を愛する者が多いと言われている。
bachaを所有することが社会的ステータスに繋がると古より意識づけられていることに起因しているのであろう。
イスラム教において禁じられている同性愛行為の定義に
bacha baziは含まれない。
それ故にbachaは権力者たちの欲望の捌け口になるのだ。
②bachaとポン引き
bachaの大半は貧しい少年達である。
貧困に喘ぐ親から身売りされた者が多い。
誘拐された者や、ストリートチルドレンが自ら身売りするケースもあるという。
bacha達はポン引きに引き取られ、歌や踊りのレッスンを受ける。
ポン引きは優れたbachaを見抜くことができる
優れたbachaとは？
ー 踊りと歌に秀でている者である。
そうでない者は？
性の捌け口となり権力者の慰み者になるのだ。
楽器と歌、踊りのレッスンを受けるbacha。
bachaは衣食住すべての保証がなされる。
家族へも金銭が支払われる。
bacha引退後の結婚資金までも面倒を見てもらえるが、
その時期まで生き残る者は多くない。
酒やドラッグに溺れ路頭に迷う者、殺害されたか行方不明になる者が多い。
煌びやかな女性用ドレスを着たbachaが淫靡な仕草と婀娜な踊りを披露する。
腰や手首、足首には煌びやかなアクセサリーと鈴を着けられている。
これらを装着させるのはポン引きの仕事だ。
ポン引きが優しい言葉を投げかけながら不敵な笑みを浮かべている。
彼もまたbachaを欲望の対象としているのだろう。
娼婦のような濃い化粧を施したbacha。
彼らは芸妓であり娼妓でもある。
芸事を披露する彼らは宴席の太陽となり、
真夜中に愛の交歓をもたらす彼らは妖艶な月になるのだ。
セックスに関するインタビューを受けたbacha。bachaとして生きる辛さを語っている。
「セックスは少しだけ愛を感じる。とてつもなく酷い痛みも味わう。でも、お金が必要だから…」
③男たちを魅了するbacha
女性用ドレスを着させられるbacha。
ポン引きの視線がみだりがましい。
女性らしさをアピールするbacha達。
「私達はセックスをしない。踊っているだけ。」と彼らは言う。
「でも、もしタリバンに捕まったら、私たちは首吊りか串刺しになるでしょうね」。
https://www.youtube.com/watch?v=Em91Vy9s1VM
アラブ・ペルシャの伝統的な愛の詩をバックに踊るbacha。
”彼の淑やかな身体”
”彼の柔らかい唇”
”綿のドレスを着た彼の身体を 触りながら男は囁く”
”お前はどこに棲んでいる？”
”お前の父親を捜し当てよう”
”bachaよ、お前は俺の心に火をつけた”
”泥酔した俺は川へ向かってる”
”愛するお前の元へたどり着くか、溺れ死ぬか”
”黄金の歯を持つ者よ”
”お前はどこにいる？”
”お前がそこへ居るのに 扉の外に立っていては意味が無い”
”お前の面差を撫でたい”
“柔らかな乳房も”
”俺の元へ 来てはくれないか？”
”黄金の歯を持つ者”
この部分は北欧神話のヘイムダルに由来しているのだろうか。
ヘイムダルは「世界の光」と呼ばれる神の名。
宴席の男達にとってbachaはまさに”光”なのだろう。
輝く衣装を纏ったbachaの美しさは神々しい。
宴席に居る者達は続々とbachaの演戯に魅了される。
そして男達は愛の言葉を囁く。
「惚れてしまった」
「お前の為ならば死んでも良い」
bachaとの甘美な一夜を過ごすため、
男達の間で官能的な争いが繰り広げられる。
歌合と金の競り合いによって勝敗を決めるのだ。
④タリバン（南部同盟）と北部同盟
妻帯者であってもbachaを所有したがる男は多い。
男の家族と共に同じ帷帳の下で食事をするbachaもいる。
bachaは側室のような存在でもあるのだろう。
bacha baziは地方特有の廃れた風習であると思われていたが、
都市部をはじめ各地でこのような風習が昨今多く見られるようになった。
映画 「君のためなら千回でも（原題 The Kite Runner 凧を追う者）」
アフガニスタンを舞台にした映画作品。
bachaを陵辱する描写がある。
上２枚の画像は1979年のアフガニスタンを舞台としているシーンだが、
このような惨事は今尚、現実に起きているのだ。
bacha baziは、
かつてのタリバン（南部同盟）政権下において厳粛に取り締まられていた。
だが、タリバン政権下においてもbacha baziの風習は僅かながら残り続けていた。
2001年米軍侵攻、北部同盟が政権を掌握した後、この風習は改めてアフガニスタン各地に息を吹き返すことになる。
軍の高級幹部や富裕層は挙ってbachaを囲うのに躍起になった。
結婚式や宴席においてbachaが歌と踊りを披露することがごく当然のことになったのだ。
法に背く行為であるが、警察は彼らを咎めることはしない。警察の幹部にもbachaを所有している者がいるからだ。
宴席で踊りを披露する15歳のbacha ハフィズ。
端正な顔立ちの彼は地元で最も人気のbachaとなった。
bachaは常に怯えている。
何に怯えているのか？
ー 殺されること、暴行をうけること。
痴情の縺れによって多くのbachaが殺害されている。
ハフィズも例外ではなかった。
レイプを受けた末、彼は殺害された。
犯人は警察官であった。
だが、犯人はすぐに釈放された。
警察上司へ賄賂を贈ったのであろう。
遺族は憤懣やる方ない思いで写真を見続けている。
北部同盟はそれほどまでに腐敗していたのだ。
2001年タリバン政権崩壊後、
各地で抵抗を続けていたタリバン残党は数多のbachaをスパイとして北部同盟へ送り込んでいた。
北部同盟の幹部はハニートラップに籠絡され尽くした。
こうした腐敗の集積が、現在のタリバンが政権復帰するに至った理由なのだ。
⑤アフガニスタンの少年達と凧
凧の糸切合戦は、アフガニスタンの伝統的遊戯である。
少年たちは互いの凧で糸を切り合い、勝敗を競う。
アフガニスタンの少年達にとって凧は自らのアイデンティティであるのだ。
ポン引きは凧販売店の経営にも携わっている。
少年たちの心に少しでも近寄るためだ。
ポン引きである彼らも少年時代には凧を飛ばし大空を見上げていたのであろう。
映画 「君のためなら千回でも（原題 The Kite Runner 凧を追う者）」
bacha baziを描写したシーンがある。
手籠めにしたbachaをタリバン幹部が引き連れている。
一瞬にして事情を察した男は目を背けた。
2022年現在、タリバン（南部同盟）が再び政権を掌握した。
bacha baziへの法的な締め付けは今後厳しくなるであろう。
だが、アフガニスタンの国民は貧しいままである。
貧困が続く限り、bacha baziの風習は今後も存続するであろう。
bacha達を不憫に思うのだが、
悲惨な状況にいながら性別を超越して演戯する彼らが何とも美しく思える。
彼らに贈られた歌をもって今回は締めくくりたい。
“姦邪の世界へ 今 繋がる”
“砂糖の如く 甘美な愛に浸るのだ”
“誰もが認める 美しい人よ”
“宴で首をかしげるが”
“お前が踊れば 俺の心は晴れる”
“美しい人よ 髪を梳かし 俺の元へ来い”
“お前の舞いと髪を愛している”
“お前の美しい身体が纏うドレス…”
