【懺】・憂鬱少女展@原宿デザインフェスタギャラリー
8月8・9日、原宿のデザインフェスタギャラリーにて、「【懺】・憂鬱少女展」が開催された。今回で3回目となる「【懺】・憂鬱少女展」では、「黒」と「白」の2つのスペースに、11組のアーティストが「憂鬱少女」をテーマにした写真やイラストを展示した。
「少女」というと、見合いある若者特有の明るく、笑顔が輝いているイメージが付きまとう。しかし、そうしたイメージとは正反対の、暗くてぼんやりとした不安を抱える少女たちを表現したのが「憂鬱少女展」である。「カワイイ」「美しい」などの言葉では言い尽くせない、「少女」の中にある闇が展覧会全体を覆っていた。
「【懺】・憂鬱少女展」に出展していたアーティストさんのうち、フェチフェスと縁の深い方々にフェチフェス広報・みみずくがインタビュー取材してきた。
鈴木真吾――アングラ界の重鎮が描き出す、暗く儚い陰鬱な少女像
「C-ROCK WORK × Kranke」としてフェチフェス04に出展経験のある鈴木真吾さんは、アングラ界の重鎮として有名である。ゆなつめやカメレオールなど、ぐれキャラをフェチフェスに連れ込んだ張本人であり、フェチフェス06出展者の何人かを裏で支えていた偉い人(?)でもある。
私自身も鈴木さんから受けた影響は大きい。「師」と呼んでも過言ではない鈴木さんに、恐れ多くも、今回の展示について語ってもらった。
「今回は3回目の憂鬱少女展なので、作品の数を絞って、小道具を絞って、シンプルにまとめました」という鈴木さんの言葉通り、鈴木さんの作品では頻繁に登場する卒塔婆や包帯などはほとんど見られなかった。卒塔婆と酸素マスクがそれぞれ1点ずつあるものの、少女たちの暗く儚い表情が印象的な作品ばかりだった。ロケメインで撮影したものが多く、自然光やその場にあるものを活かした写真が目立つ。
今回の展示では、鈴木さんの強い拘りが特に感じられた。「セピア調の写真には和紙を使ってレトロを意識しました。展示だと紙メインになるので、イメージと紙との関係を大切にしています」。和紙に印刷された写真は、ROMやツイッターのTLなどで見るのとは異なる質感があった。
また、作品のタイトルにも鈴木さんは拘る。「タイトルは、類義語辞典を使いながら、考え抜いて付けています」。タイトルにする文言は、簡単過ぎると説明的になり、難し過ぎると中二病的になるため、展覧会当日まで決まらなかった作品もいくつかあるという。
「『憂鬱』というテーマですが、まだ自分なりの答は出ていません」と語る鈴木さんの頭の中は、既に次回作のモチーフでいっぱいだ。「憂鬱」の新たな形を鈴木さんは模索し続けているのだ。
ヌコの下僕――血まみれの女の子が醸し出す、猟奇と耽美の織りなす世界観
ヌコの下僕さんは、フェチフェス06に初出展。3人の魅力的な売り子さんたちと一緒にリョナフロアを盛り上げてくれた。また、フェチフェスブログへの寄稿記事では、フェチフェスに対する熱い思いを綴ってくれた(参考「ヌコ3匹とその下僕、ついに憧れのフェチフェスの舞台へ」)
ヌコの下僕さんの作品は、猟奇や百合など、女性の闇を扱った作品が多い。視界にパッと飛び込んでくる真っ赤な血や臓物は鮮烈で、人によっては吐き気を催すだろう。好き嫌いがはっきり分かれる作品である(もちろん私はヌコの下僕さんの作品が好きでROMも購入している)
「フェチフェス後にさまざまな反応がありました」と笑顔を見せるヌコの下僕さん。作品のモチーフは、小説の一部や話と話の間の物語などを再現しているという。私は「ヌコの下僕さんは毎日血まみれの女の子を妄想しているのでは?」と思っていたが、そんなことは全くないとのことだった(ヌコの下僕さん、誤解していてごめんなさい(笑))
今回は「セーラー服×日本刀×工場」をモチーフにした作品も展示。もともとコスプレ撮影から写真の世界に入ったというヌコの下僕さんは、「モデルさんが良いと言ってくれれば、これからもコスプレ作品を作っていきたいですね」と今後の展望についても話してくれた。フェチフェスとは違ったヌコの下僕さんの一面が見られる展示だった。
「今回は、他の写真展ではできない立体的な作品に力を入れました」と語るヌコの下僕さんが指さす先には、注射針やピンが大量に刺さった写真があった。横から見るとその異様さがはっきりと分かる。笑顔の女の子がとても痛々しい。この作品の被写体は、フェチフェス06で売り子として大活躍した結城碧さん。ヌコの下僕さんに勧められて、私も彼女の顔の黒子にピンを刺させてもらった。
蜜ヰゆか――異形の人型によって表現される、人間の中にある意識体
鈴木さんに案内されて「白」の部屋へ行くと、そこでは蜜ヰゆかさんが出迎えてくれた。美大卒のゆかさんは美術をメインに活動している。「昔から自分の中にある『表現したい』という思いを大切にしながら絵を描いています」
ゆかさんの展示は、「憂鬱少女展」では珍しい本格的な絵。描かれた人型のポイントは、髪が無かったり、極端に痩せていたり、目が大きかったり……という異形の容姿だ。「人の形をしていますが、人そのものではなく、人の中にある意識体を描いています」とゆかさんは解説してくれた。
ゆかさんにとって、絵を描くことは「生きてる」と実感するための行為だという。「『絵を描かずにあと60年生きろ』と言われたら、私はとても生きられないと思います」。ゆかさんの絵に対する情熱がひしひしと伝わってくる言葉だった。
さらに、ゆかさんは「自分自身も作品として表現したい」ため、「日本ローレグライズ協会」(ロー協!)に所属したり、被写体として撮影されたりと精力的に活動の幅を広げている。今回の展示では、初写真集『コンプレックス マニアックス』も販売。この写真集は、8月7日に開催された「ロー協!」のイベント「ローイベ」でお披露目されたものだ。
フェチフェスにも思いを寄せてくれるゆかさんに、私も心からエールを送りたい!
大盛況だった「【懺】・憂鬱少女展」
私が取材している間も、「【懺】・憂鬱少女展」には入れ代わり立ち代わりお客さんが訪れていた。お目当ての作品を鑑賞したり、在廊しているアーティストさんたちと交流したりと、各自がさまざまな楽しみ方を見つけていた。「憂鬱少女」という暗いテーマを扱っているにもかかわらず、あちこちから笑い声が聞こえてくる雰囲気があった(私が訪れたときは、ちょうどアーティストさんのお誕生会が行われていた(笑))
また、原宿のデザインフェスタギャラリーが会場だったため、多くの外国人観光客も「【懺】・憂鬱少女展」に訪れたそうだ。鈴木さんが作成した配布冊子には、日本語で書かれた文章の下に英語表記があり、外国人からも好評だったという。「憂鬱少女」は、「クールジャパン」として、今後は海外展開していくのかもしれない。
進化を続ける「憂鬱少女展」の次回開催に期待したい。
写真・文=みみずく