お耽美写真家憬-Kay-の世界展 Kay×赤根京 コラボシューティング@ギャラリー新宿座
6月28日、フェチフェス広報のみみずくは、ギャラリー新宿座で開催中の「お耽美写真家憬-Kay-の世界展」を訪れた。お耽美写真家・憬さんがFFG(フェチフェスガール)の赤根京さんとコラボして行うライブシューティングを取材するためだ。
「ライブシューティング」というのは、観客が見ている中でカメラマンが実際に撮影するというパフォーマンス。今回の記事では、そのライブシューティングの模様を中心に、「お耽美写真家憬-Kay-の世界展」の見どころを紹介する。
憬さんにとって有刺鉄線とは何か?
「お耽美写真家憬-Kay-の世界展」では、60点以上の作品が2つの部屋に展示されていた。一方の部屋には、 フェティッシュな写真を中心とした連作が並ぶ。
一緒に展示されているのは、革や七四さんの首輪作品とP.P★CRYSTALさんのガラス作品。これらの作品と憬さんとのコラボ作品もあり、そのめくるめく世界観に来場者は皆見入っていた。
もう一方の部屋には、「wired sekai」と呼ばれる一連の作品が展示されていた(こちらの部屋は撮影禁止のため、画像はありません)
「wired sekai」は、有刺鉄線で縛られている被写体を撮影した作品群。一度見ると忘れられないくらい視覚的インパクトが強い。ここで私が思ったのは、「なぜ有刺鉄線を使うのか?」ということだ。そんな私の疑問に、憬さんは快く答えてくれた。
憬さんが有刺鉄線に興味を持ったのは、有刺鉄線をモチーフにした絵画的な作品をネット上で見たことがきっかけだ。その作品を「カッコイイ」と思った憬さんは、自分でも有刺鉄線を撮影に組み込んだ。しかし、できあがった作品は綺麗なだけで終わり、 納得できるものではなかったという。
その後、憬さんは、女優で映画監督でもある水井真希さんと出会い、「wired sekai」を撮り続ける決意を固めた。無数の傷を持つ彼女を有刺鉄線で縛って撮影した憬さんは、「水井さんの葛藤が見えた」そうだ。水井さんは10代の頃体験した拉致事件を映画『ら』で映像化している。(※厳密には水井さんを撮影したのは映画『ら』制作以前である。)
以降、憬さんは、知り合いの紹介などを経て被写体を募った。被写体の中には、性同一性障害、XXY染色体インターセックス、HIV+など、何らかの問題を抱えている人たちもいた。一見普通のサラリーマンや大学生であっても、身体改造を施していたり、過去のトラウマに悩まされていたりと、普段の姿からは分からない何かを秘めた人たちもいる。
憬さんが彼らを縛る有刺鉄線は、「彼らと人とを遮る壁であり、彼らと社会の間にある壁」を表す。その壁は、彼らを守ることもあれば、他人を寄せ付けない障害ともなり得る。しかし、そのような壁があるからといって、問題を抱えている人たちが特殊なのかといえば、そうではない。彼らもまた普通に生活している人間であり、「異常」でも「特別」でもないのだ。彼らを差別したり区別したりするのではなく、他の人たちと並列に扱うことが大切である――憬さんは、有刺鉄線にそのような思いを込めている。同時に、同性愛者などを「LGBT」と呼んで特別視するような最近の風潮に対しても警鐘を鳴らしている。
憬さんが用いる有刺鉄線は、単なる「カッコイイ」ではなく、社会に対するメッセージを伝える象徴的な役割を担っているのだ。
Kay×赤根京 コラボシューティング
いよいよ憬さんと赤根京さんのコラボシューティングが始まった。
ボロボロのセーラー服をまとった京さんが、誰かに追われているのか、展示室へと逃げ込んできた。そこへ、ガスマスクを着用した憬さんが登場。憬さんは京さんを天井の鎖に括り付け、そのまま有刺鉄線を巻いていく。
京さんを縛り上げた憬さんは、カメラを構えて撮影に入った。
撮影の最中、憬さんから京さんへ指示が入る。
「動ける範囲で体を回転させようか。不自由な感じで」
憬さんの指示は、具体的な体の動きに関するものだけではなかった。
「有刺鉄線の刺激を感じよう」
「痛みから逃れたいけど逃れられないように」
「上から差し込んでくる光を感じて」
憬さんが京さんに求めるのは、見せかけだけの演技ではない。京さんに、有刺鉄線が象徴する「自分と社会の間にあり、自分と他人とを遮る壁」をしっかり実感してもらおうというのだ。
京さんは、有刺鉄線は皮膚に接触する感覚を自らのこととして真摯に受け止め、体をよじり、天を仰ぎ、苦悶の表情を浮かべた。
憬さんの作品はこうして作られているのだ。被写体に演技をさせてそれらしい体裁のものをこしらえるのではなく、被写体の内面をも写真という媒体に刻み込む――憬さんの作品が多くの人たちを魅了する理由がここにあるのだろう。
撮影終了後、京さんの体から有刺鉄線がほどかれた。「有刺鉄線を外すときの解放感がいい、と言う人が多いんですよ」と語る憬さん。撮影は常に緊張感に包まれ、被写体は解放感を味わった後、30分ほど倒れてしまうこともあるとか。京さんは、憬さんとの撮影は2回目とのことだったが、有刺鉄線から自由になっても「頭がグチャグチャ」状態だったそうだ。
こうして憬さんと赤根京さんのコラボシューティングは無事に幕を閉じたのだった。
檻の中の赤根京さんを撮影する会
ライブシューティング後、京さんは別の部屋へ移動した。そこには、P.P★CRYSTALさんが制作した檻があった。京さんが檻の中に入ると撮影会が始まった。
檻の中でさまざまなポーズを決める京さん。その周りでは激しいシャッター音が鳴り響いた。
おわりに
今回私は、フェチフェス広報として、FFGの赤根京さんをメインに取材するつもりだった。しかし、「お耽美写真家憬-Kay-の世界展」へ足を踏み入れた途端、当初の取材目的も忘れ、憬さんの描く世界にどっぷりハマり込んでしまった。
私は憬さんの作品を以前にも何度か観たことがあり、そのときから既に気になっていた。加えて、インタビューを通して憬さんの考え方にとても共感した、というのも大きかった。取材がきっかけで新たな出会いに恵まれる、というのは幸運なことだ。
……という私事はさておき、「お耽美写真家憬-Kay-の世界展」は、大好評につき7月5日まで会期延長となった。多くの人たちに憬さんのメッセージが伝われば、と思う。
・ギャラリー新宿座HP:http://shinjukuza.jp/
・お耽美写真家憬-Kay-さんのツイッターアカウント:https://twitter.com/kay_nanaka
・赤根京さんのツイッターアカウント:https://twitter.com/gurutoron
写真・文=みみずく